詰め物被せ物の選択は迷いますよね?
*私もチェアーサイドで患者様に時間をかけてご説明させて頂いておりますが、予備知識として前もって以下の内容に目を通して頂けると御相談がスムーズに進むと思います。長文で恐縮です。
まずは、ほぼ全ての被せ物と詰め物の種類を列記し、続いてそれぞれを解説していきます。
被せ物
①保険適用の12%金銀パラジウム合金
(小臼歯、大臼歯)
②保険適用の硬質レジンジャケット冠
(前歯、小臼歯)
③保険適用の硬質レジン前装冠
(前歯)
④条件付きで保険適用のハイブリッドセラミックジャケット(CADCAM)
(小臼歯、大臼歯 但し条件付き)
⑤自費の金プラチナ合金
(小臼歯、大臼歯)
⑥自費のハイブリッドセラミック冠
(全ての歯)
⑦自費のメタルセラミック
(全ての歯)
⑧自費のオールセラミック(CADCAMとe-max)
(全ての歯)
詰め物
⑨保険適用の12%金魚パラジウム合金
(小臼歯、大臼歯)
⑩保険適用のレジンインレー
(小臼歯、大臼歯)
⑪自費のセラミックインレー(e-max)
(小臼歯、大臼歯)
⑫自費のジルコニアインレー(CADCAM)
(小臼歯、大臼歯)
①⑨保険適用12%金銀パラジウム合金
奥歯に保険適用で頻繁に使われます。
12%金・20%パラジウム・50%銀・16%銅
この組成割合は国の定めたものです。
硬さは227Hv、曲げ強度600MPa
硬さ、曲げ強度的には何も問題ありません。
経験則から割れたり欠けたりする事もなく過度に摩耗することも無いです。
気になる点としては銀の含有率が多く、銀の酸化腐食し易い性質により金属が溶けやすく(イオン化)、
身体への影響がやや心配です。
特にパラジウムが問題視されています。
必ず身体に影響出るわけではありませんが、厄介なのはもし影響を受けているとしても金銀パラジウム合金と症状との因果関係を証明することが容易では無いということ→治療がなされない可能が高い。
また金属アレルギーは発症するとなかなか治りづらいと言われています。
それであれば……
私もいっそのこと金属を使わない
ノンメタル治療をお勧めしていこうかなと考えましたが、
やはり金属の正確性、設計の自由度、耐久性、耐用年数の長さを考えると金属を使うことに妥当性があると思います。
だからこそ金属を使うならばなるべく品質の良い金属を使用することが、歯の為にも身体の為にも大切だと思います。
加えてセラミックなのか金プラチナ合金なのか金銀パラジウム合金なのか?の適材適所的な相談も大事だと思います。
全て金属とか全てセラミックとかでは無く適材適所で使い分けるということが理想形かもしれません。
歯に装着する「かぶせ物」「つめ物」は1度治すと永久的に持つというものでは無く、例えば5年から25年?とかで「再治療」が必要になるということです。
例えば10年で虫歯ができてやり変えるとすると40才の方だと一生の中で3、4回やり直す計算になります。
20年持てば2回か、もしかして1回で済むかもしれません。
歯は治療を重ねるほど弱くなるのは否めないので、治療と治療のスパーンを長くすることがすごく大事です。
12%金銀パラジウム合金の材料的な面での欠点については、トピックの金プラチナ合金の良さをクリックしてご覧ください。
②硬質レジンジャケット冠
保険適用で前歯と小臼歯に使われます。
レジン(樹脂)のみで出来ています。
曲げ強度75MPaと低い数値ですが割れることはそれほど多くはありません。
それより問題なのはビッカース硬度55Hvの方ですね。
かなり早いペースで摩耗していきます。
では摩耗が早いと何が悪いかをご説明します。
歯は前後の歯、対合する歯と接触していることによりその歯の位置や全体の歯列(アーチ)が保たれています。
歯列(アーチ)が保たれていると歯1本1本が守られ、顎関節も守られます。
少しイメージしづらいですが補綴物の磨耗が早いと歯が移動しやすくなります。
歯が移動するということは、歯列の乱れや顎のズレ、顎関節の摩耗のスピードが早まるわけです。
年齢を重ねるにつれて歯列は徐々に乱れてくるわけですが、硬過ぎたり、柔らか過ぎる素材で被せ物や詰め物を作り装着された場合は、この歯列の乱れが助長されてしまうのです。
したがって硬さという点での素材の選択は実はすごく大事です。
レジンは変色するからとか、壊れるとかは大した問題では無いのです。
摩耗の早さが問題なのです。
③硬質レジン前装冠
保険適用で前歯と小臼歯に使われます。
内側は12%金銀パラジウム合金で、正面から見える部分のみレジンを貼り付けたものです。
②との違いは内側に金属を使っているかどうかで構造が違います。
ただし前歯のみの保険適用となります。
②より内側に金属があることにより耐用年数はやや向上していますが12%金銀パラジウム合金を使うこととレジンの欠点もあり、後述のセラミックと比べるとさまざまな面で圧倒的に劣ることは否めません。
④ハイブリッドセラミックジャケット冠
最近保険適用になった、条件付きで小臼歯と大臼歯に使われます。
ハイブリッドレジンブロック(CADCAM)から削り出し(CADCAM)で製作します。
曲げ強度271MPaで充分な数値であると思います。しかしながら樹脂であるがゆえに経時的に劣化が進むことがレジンの問題点です。
ビッカース硬度98〜138Hvでこれはエナメル質の270〜366Hvと比べると柔らかく、摩耗の速さが懸念されます(セラミックは450Hv)。これにレジンの経年劣化も加わるわけで、セラミックに比べると圧倒的に劣る材料と言わざるを得ません。
もう1点気になるところはCADCAMということです。
CADCAMとは機械が削り出すもので、各方面で普及しておりますが、歯科においては今のところ熟練した歯科技工士が手仕事で製作したものに比べて歯との適合性、色味や細かい形態再現などが劣ることはあっても勝ることはありません。
技術要らずで短時間で出来るから歯科技工所も安価に提供出来るわけで、だから保険適用が可能なんです。
やはり短時間で精度の良いものは得られないということです。
加えてCADCAMの補綴物全般に共通なことですが歯自体の削除量は多くなります。
言うまでもなく歯は削れば削るほど弱くなります。
これは確実にそうなりますし、非常に重要なことです。
ということで今のところ当院では行っておりません。
⑤金プラチナ合金
自費診療として奥歯に使います。
ビッカース硬さ220Hv
曲げ強度600〜880MPa
とくに注目はエナメル質のビッカース硬さ270〜366Hvに近いということです。
歯の修復材料のなかではもっとも耐用年数の長いものと言えます。
歯科関係者は自分の歯にはゴールドを入れたがるという理由はこの耐用年数の長さにあります。
ゴールドの良さに関してはトピックの金プラチナ合金の良さで詳しくご説明しておりますのでクリックしてご覧ください。
⑥自費のハイブリッドセラミック冠
前述④のハイブリッドジャケット冠と似ていますが こちらはCADCAM削り出しでは無く、内面にメタルをフレームとして使い外側面をハイブリッドレジンで歯の色に仕上げたものです。
通常内面にはメタルセラミックの様に金属のフレームがあり外側面にハイブリッドセラミック(レジンにセラミックの粉を混ぜて物性を良くしたもの)を盛り付けております。曲げ強度は218MPaで充分です。
ビッカース硬度が55Hvでエナメル質の270〜366Hvに比して低く、レジン(樹脂)の経時的な劣化傾向もあることから、自費の素材としては不充分な感が否めません。料金と価値のバランスの観点から私はお勧めしていません。
⑦⑧セラミック(メタルセラミックとオールセラミック)
天然歯の代わりと言うと少々言い過ぎではありますが、審美的にも丈夫さの面でもバランスがとれたものとしてはonly oneとも言えるセラミックについてご説明していきます。
セラミックの被せ物には大まかに分けて2種類あります。
メタルフレームにセラミックを焼 き付けたメタルセラミック
メタルを使わずセラミックのみで構成されているオールセラミック
ではそれぞれについて説明していきます
⑦メタルセラミック
自費診療として全ての歯に使います。
金属フレームの曲げ強度は金属により200〜600MPaであり、陶材の曲げ強度は70MPaと低い値ではありますが充分な強度が確保されていると思われます。
しかしながら1部分(陶材)が欠けることが稀にあります。
“硬い物は欠けやすい”ということですが、まあエナメル質でも欠けることがありますし、欠けがある割合で起こることは仕方がないと考えますが、問題となる頻度で起こるものではありません。
ビッカース硬度は380〜450Hvで充分かやや硬いですがエナメル質(270〜366)との差はそれほど大きくなく、臨床的には問題とならないように思います。
昨今流行?のフルジルコニアのビッカース硬さ1300Hvに比べるとエナメル質の硬さとの調和はとれていると考えます。
⑧オールセラミック
自費診療として全ての歯に使います。
オールセラミックにはジルコニアを用いるもの a・b
2種類とニケイ酸リチウムガラスセラミックを用いる
もの cと3種類あります。
それぞれについて説明いたします。
a:ジルコニア単体でCADCAMで製作されたもの
フルジルコニアと呼ばれるものです。
曲げ強度800〜1500MPa
ビッカース硬さ1400Hv
ジルコニアは非常に高強度の素材で、フルジルコニアとはジルコニアのインゴットをCADCAM(削り出し)で製作されるものです。
そのまま歯の形態が出来上がることにより、高強度に短時間で仕上がるのが特徴です。
私の個人的な感覚では
・高強度→硬すぎて歯や歯茎を痛める
・短時間→短時間→歯科技工士が長年の経験を活かして作り上げるものより適合性や審美性が劣る。やはり匠の技には勝てない。
上記の2点により今の時点ではフルジルコニアにメリットは感じず、患者様にはお勧めしておりません。
b:ジルコニアのフレームをCADCAMで製作し外側にセラミック(陶材)を焼き付けたもの。
(ジルコニアCADCAM+レイヤリング)・・・ オールセラミック1
aのフルジルコニアと違うところは、フレームのみジルコニアを削り出して作り、歯の殆どの外側面を技工士が陶材を焼き付けて歯の形態を作るもので、フルジルコニアより審美面が向上することと、硬さが下がる(ジルコニア1300Hv、陶材380〜450Hv)ことにより歯への負担が減るメリットがあると思います。硬ければ良いというわけではないということです。
CADCAMの懸念点(私の認識)
CADCAMの適合性はメタルセラミックより若干落ちるかも?
という点です。しかしこの点を問題にしなくてもいいぐらい技術的には向上してきていますし、金属を使わないことによる審美面の良さ及び金属アレルギーが無いという点ではメタルセラミックよりも優れていることを考え合わせると、ジルコニアCADCAM +レイヤリングは充分臨床で使える優れた修復法であると私は思います。
c:e-max(ニケイ酸リチウムガラスセラミック+レイヤリング) ・・・ オールセラミック2
曲げ強度400MPa
ビッカース硬さ590Hv
IPS e.max プレスは、豊富な透明度と高い均一性を持つ、二ケイ酸リチウムガラス セラミックスインゴットです。
e-maxの良さとしては CADCAMによるジルコニアセラミックの製作法とは違い、プレスという金属の鋳造と似た方法で製作することにより適合性がジルコニアより良いことが最大の利点です。
e-max プレスで検索して頂くとメーカーの詳しい説明がご覧になれます。
前述のa.bと同じように
プレス法によりe-maxガラスセラミックでそのまま歯の形態を作り上げる方法と、
プレス法でフレームを作りレイヤリングテクニックと言われるフレームの外側面に歯科技工士が陶材を盛り歯の形にする製作法と2通りあります。
前歯などは審美性が重要なので、プレスでフレームを作製後に歯科技工士が歯の外側面に陶材を盛る製作法の方が天然歯の質感が出せるのと、患者様の天然歯に調和させることが出来ます。
前歯以外のそれほど審美性を追求しなくても良い臼歯の場合はプレス法で歯の形態を全て作り上げて、表面をステイニングという技術で色合わせをする方法で仕上げるやり方が適しています。
臼歯には表面ステイニング法が適している理由は?
・e-maxのガラスセラミックはメタルセラミックやオールセラミックbに使う陶材より 曲げ強度が高い(陶材70MPa、e-max400MPa) ことにより欠けづらい。
・オールセラミックaのフルジルコニアに比べて硬さが抑えられており(フルジルコニア1300Hv、e-max590Hv)、被せる歯や対合歯を痛めづらく 、特に歯ぎしり 食いしばりをする患者様には適してると思います。
e-maxは万能のように記しましたが・・・
他の修復法を選んだ方がベターなケースがありますね。
ではe-maxでは無く
オールセラミックbのジルコニア陶材盛り
メタルセラミック
の方がベターのケースとは?
1.e-maxは透明感がある為、被せる歯の色が変色していたり金属の土台が装着されているケースでは色調が影響される可能性がある。神経を取っている歯に被せる場合は上記の状態が多いですね。
2.ブリッジのケースではフレームに強度が必要です。
フレームの強度としては
e-maxのフレームよりも
ジルコニアフレームのオールセラミックb
メタルフレームのメタルセラミック
の方がフレーム強度が高い。
したがってブリッジの場合
前歯で審美性を重視するケースではオールセラミックb
前歯でも耐久性を重視したり、臼歯のブリッジの場合は
メタルセラミックをお勧めしております。
⑩保険適用のレジンインレー
プラスチックの詰め物です。白くて安価と言う点では良いのですが、いろいろと欠点があります。
レジンの欠点は←クリックしてご覧ください。
ビッカース硬さは55Hv 曲げ強度83MPaビッカース硬さが低い為摩耗が早いです。
曲げ強度も低く欠けやすいと言わざるを得ませをん。摩耗が早いということの悪影響は他でご説明させて頂いております。
摩耗が早いと何故悪いか←クリックしてご覧ください。
⑪e-maxインレー
私は自費の白い詰め物はe-maxのオンリーワンです。適合性、審美性、丈夫さの3点で追随するものがありません。
e.maxは高い強度と均一性を持った二ケイ酸リチウムの加圧成形ガラスセラミックです。 曲げ強度が400MPaで一般的な陶材(セラミック)の70MPaの5倍以上あり、硬さも590Hvでジルコニア1300Hvほど硬過ぎず、また正確にフィットする修復物を製作可能なシステムにて作り上げます。高強度でありながら適度な粘りがあるため、噛み合わせる力の強い、奥歯の詰め物の治療に適しています。 天然歯に近い摩耗性を持っているため、噛み合わせる天然歯に負担をかけにくいのも特徴です。
⑫ セラミックインレーCADCAM
曲げ強度800〜1500MPa
ビッカース硬さ1300Hv
セラミックブロックを器械で削り出して製作するものです。この治療のメリットは短時間で製作可能で、ワンデートリートメントすなわちその日の内に治療が完了するという画期的な治療法です。
デメリットはやはり器械での削り出しの為、寸法的な適合性や色のマッチングが劣るということが言われております。
また硬すぎるのも大いに気になります。
ということで当院では行っておりません。
主な歯の修復に使われる材料のビッカース硬度
天然歯(エナメル質):270~366 Hv
天然歯よりも硬い
・ジルコニア:1300 Hv
・セラミック:400~485Hv
・e-max: 580Hv
天然歯より軟らかい
・12%パラジューム合金:227 Hv
・20K合金:200Hv
・ハイブリットセラミック(レジンとセラミック粉の混合):120 Hv
ペーストタイプ : 55 Hv
CADCAM タイプ : 98〜138 Hv
・義歯の人工歯 :30 Hv